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2021年度新入生ならびに2年生に対する学部長の歓迎挨拶を掲載しました

2021年04月22日 おしらせ

2021年度新入生歓迎挨拶

 入学おめでとうございます。北海道大学教育学部の教職員を代表して、皆さんを心より歓迎いたします。

 昨日の入学式では皆さんのやや緊張した面持ちの中に、新たな挑戦が始まることに対する期待と決意を読み取ることができました。本日もそうですが、凛とした皆さんの姿に触れ、私たちも研究と教育に対する思いを新たにしています。

 皆さんは様々な進路を選択する可能性があったわけですが、その中でも北海道大学教育学部を選択されました。理由や動機は様々かと思います。しかし、共通して人間の発達や成長に関心を寄せて頂いていると理解しても恐らく間違いではないと信じます。そして、そのことを私たちは大変うれしく思います。

 それは第一に、その関心は人間に対する信頼を前提にしているからです。私たちは現在、ともすれば悲観的な見方に陥りかねない状況の下にあります。例えば、新型コロナウィルス・ワクチンの分配が裕福な国々に偏ることについて、WHOは倫理的に容認できないと述べました。人の命の重さの平等性という理念は、21世紀に入っても依然として画に描いた餅に留まるかのようです。
     
 ヘイトクライムも深刻化しています。人を性別や人種などの何等かのカテゴリーに押し込め、個人としてではなくそのカテゴリーに属することを理由に不当な扱いをすることは全て差別にあたります。二度の大戦を経験し、深刻な反省の上に、二度と過ちは犯さないと誓ったはずの人類が、パンデミックという人類史的な出来事に見舞われたときに、自らの愚かさを露呈せざるを得なかったのだとしたら、もはや人類に希望を語る資格はないという悲観論が登場してもおかしくありません。

 しかし、皆さんは人間の可能性を信じて教育学部を選び、教育学へ期待して下さっている。そこには「私たちは決して絶望しない、したくない」という思いがあるはずです。皆さんのこの思いを私たち教職員はしっかりと受け止めます。

 第二に、その関心は混迷の様相を呈する現代社会の求めに応えるものだからです。この学部は1949年に創設されました。教員養成を主たる目的としない教育学部、つまり教育学を研究し教授する教育学部が72年にわたり存続しているのは、第二次大戦後の民主主義社会を実現するために不可欠の学問として教育学が位置付けられてきたからに他なりません。言い換えれば、教育学を欠いた社会は民主的な社会、つまり誰もが人生の主体になる事が出来る社会にはならないと理解されてきたからです。このことは「憲法の理想の実現は教育の力にまつべき」と述べた旧教育基本法に端的に示されています。

 近代に入り、私たちは自分の生き方を自分で、あるいは自分たちの生き方を自分たちで決めることができるようになったと同時に、決めなくてはならなくなりました。それに伴い、一方で自由を享受しつつも、他方では存在の不安定さに直面し、生きる意味を問わざるを得なくなったのですが、そうであるが故に、人間が人間らしく育つ社会を創る見通しを明らかにしたいという願いは近現代社会に生きる人々の根源的要求になりました。皆さんが教育学を学ぶということは個人的な事柄ですが、その学びはこのような社会的な要請に支えられて成り立っています。つまり、この学部には、様々な理由で生きる希望を無くした子どもや若者や高齢者、命を削る働き方を強要される人々、民族の誇りを奪われた人々、あるいは様々な暴力にさらされ続けている人々などからの切実な期待が寄せられているのであり、それに誠実に応える努力を続けることによってのみ、この学びの場は存続できます。私たちの学部は、人間らしく生きたいというささやかな、しかし根源的な希望に対する灯であらねばなりません。それはこの学部の学生となった皆さんへの要請でもあります。

 大学での学びは、教科書を理解し、知識を増やすような学習ではなく、自分と社会を重ね合わせながら、自分は何を、何故問うのかを考え、自分をとりまく世界とどうかかわろうとするのかを模索する過程であり、またその探求を支える自分なりの言葉を獲得していく過程です。そのような学びは多くの人々の人生と出会うことによって初めて実現します。皆さんがこの学部の背後にある多くの人々の人生と向き合い、彼・彼女らの深い声を聴き取り、4年後には彼らと共に希望を語り得る若者として、この学部を旅立ってくださることを切に願うことをお伝えし、私からの祝辞といたします。

令和3年4月7日
教育学部長 宮﨑 隆志

 

2021年度2年生歓迎挨拶

 進級おめでとうございます。今年は5組から30名、総合文系から17名、総合理系から3名の計50名を新2年生に迎えることになりました。そしてこの場には3年生に編入学される方10名も出席されています。教育学部教職員を代表して皆さんを心から歓迎致します。

 いよいよ専門教育が始まります。間もなく始まる授業は、皆さんにとって新たな世界へ足を踏み入れる機会になるはずですが、その先には、獲得した専門性を活かして新しい社会を創り上げていく責任ある主体としての皆さんの姿があります。言うまでもなく、皆さんの場合は教育学を学んだ者として、他では担えない力を発揮することが期待されています。

 私たちの学部は、ディプロマポリシーで述べているように、様々な領域で教育の実践と改善に携わりながら平和な世界の実現に寄与する人材を送り出すことを目的としています。ここでいう平和は、誰もが他者を尊重し、赦しあい、そして穏やかに生きる(井上ひさし)状態を意味しますが、現在の世界はそのような状態からほど遠いと言わざるを得ません。新型コロナウィルス感染症の拡大によって、私たちは依然として不安と緊張の下に生きざるを得ません。ヘイトクライムは国内外に広がっています。またミャンマーで起こっている事態は、人が作りだした制度や組織が人のいのちを奪うに至る最悪のシナリオを示すものです。

 人は経験を通して学びます。その経験は喜怒哀楽の全てを含むものであり、時にその学習の結果は暴力を正当化するような形態で発現することもあります。教育学は、そのような人間存在の現実を直視し、それでも人間が平和のうちに生きる可能性を断念せず、その可能性を実現するための人間形成の条件を解明することを基本課題としています。

 皆さんの中には、これまでに、教育学以外の学問や専門性を通して社会に関わる方向を考えたことがある方もいらっしゃると思います。どの学問分野を通してでも現代の世界をより良いものにするための貢献は可能です。しかし、理論的展望を客観的に描くだけでは世界は変わりません。人々が自らの経験を振り返り、新たな展望を我が物としていくような学習とその組織化が無ければ、理想は画に描いた餅に留まるかもしれません。人々の多様な実践の世界の中で、人々とともに希望の画を描くことができる担い手になることを意識していただければ幸いです。

 そのような担い手は実践的な学習経験を通して形成されます。専門授業は演習も講義も相対的に少人数で実施されます。コロナ禍という制約の下で専門課程としてのよりよい学びの場を創り上げるために、皆さんの昨年度の経験に基づくご意見も積極的に表明してくださることを期待しています。
皆さんが今後の3年ないし2年を経て、混迷の様相を呈している現代の世界に希望を生み出す担い手として旅立ってくださることを願いつつ、進級のお祝いの言葉とさせていただきます。

令和3年4月2日
教育学部長 宮﨑 隆志


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