北海道大学/大学院教育学研究院/教育学部
Language
トップイメージ

卒業生の声

人生を変えた「臨床」との出会い

中学校教諭(札幌市) 田近 健太
<特殊教育・臨床心理学ゼミ/2006年度卒業>

s01

今でこそ「教育」に携わる教員の仕事をしている私ですが、大学に入った当初は自分が教員になるとは、思いもしませんでした。以前から人と関わることに興味があり、広い視点で「教育」や「人と関わる」ことを学ぶことができると思い、この北大教育学部を選びました。そのため、この教育学部が教員養成のための学部ではないこともむしろ自分にとっては魅力でした。
 大学に入った当初は、自分の興味を絞りきれず、何を専攻しようか決まっていませんでした。そんな大学1年生の夏、自分にとって大きな出会いがありました。全学教育科目の中で紹介された、学習障害親の会のキャンプのボランティアに参加してみることにしたのです。ここでの出会いが、その後の大学生活や人生に大きな影響を与えることになりました。ボランティアに参加したきっかけは、本当に軽い、いわば「ノリ」だったように思います。「ボランティア」という言葉に興味があり、とりあえず友達と勢いで参加してみたというのが正直なところです。キャンプに参加しているのは、発達障害のある子どもたちやその兄弟、保護者の方たちです。ボランティアの仕事は、キャンプのレクや活動を子どもたちと一緒に楽しむこと、またそのためのサポートをすることでした。一緒に過ごした子どもたちは、「障害」という言葉を感じさせないほど明るく元気で、一見すると「ふつう」の子どもたちのようでした。キャンプの中ではとても楽しそうにいきいきと過ごしている子どもたち。しかしその一方で、学校や別の場面ではそれぞれが悩みや困難を抱えていることを後から知りました。
 このキャンプへの参加がきっかけで、「発達障害」について興味を持った私は、北大土曜教室に参加することにしました。北大土曜教室とは、発達障害のある子どもたちが、学校のない土曜日に大学に来て、個別の学習支援を受けたり、集団で遊びながら人との関わりを学ぶ場です。土曜教室は教育学部の大学院生や大学生のボランティアを中心に運営されており、ともに参加している大学の先生や現職の教員から助言を受けることもありました。そこで、ボランティアとして発達障害のある子どもと関わり、時間をかけてじっくりと向き合う経験をすることができました。発達障害のある子どもは、中枢神経系の何らかの機能障害が原因で、日常生活や学校場面などで困難が生じると考えられています。子どもと向き合う中で、目の前の子どもがなぜ、何が原因で困っているのかを考える機会を与えられました。その原因をより深く知りたいと思った私は、特殊教育・臨床心理学ゼミで学ぶことを選びました。心理学的な視点を持つことで、困難の背景にはその原因となる子どもの特徴(認知特性)があることを知りました。その上で、一律の学習方法ではなく、子どもの特徴に合った、いわゆるオーダーメイドの学習方法を考えることが、学習に効果があることを学びました。学生の内から「臨床」に触れることで実にたくさんのことを考えさせられ、他所ではできない貴重な経験をすることができたと思います。先生、先輩、仲間たちのサポートを受けつつ、土曜教室で関わった子どもたちから、とても多くのことを学ぶことができました。
 私は今、障害のある子どもを担当する教員をしています。学校現場では、発達障害の有無にかかわらず困難や悩みを抱える子どもたちがたくさんいます。大学で学んできた以上の困難に出会うこともしばしばあります。しかし、土曜教室や教育学部で学んだ「一人一人と向き合う」という精スピリット神を忘れずに、これからも子どもたちの未来を見据え、一人ひとりに合わせた教育を実践していきたいと思います。
 私は些細なきっかけから、後の人生に影響を与えるほどの大きな出会いを大学生活の中で見つけることができました。北大教育学部で得た「出会い」、「経験」は私にとってかけがえのない財産です。


大学生活を通じて、得た視点

札幌市役所子ども未来局児童福祉総合センター 藤村 まどか
<教育福祉ゼミ/2011年度修士課程修了>

s02

私は今、一般的には「児童相談所」として知られている職場で働いています。札幌市の児童相談所内には、三つの仕事があり、一つ目が児童福祉司、二つ目が児童心理司、三つ目が一時保護所の指導員です。この三つの仕事で役割分担をし、業務にあたっています。ざっくりと役割を説明すると、児童福祉司は親や外部の関係機関とのやりとりや調整を行う役割、児童心理司は子どもに検査をしたり話を聞いたりする役割、一時保護所の指導員は、何らかの事情で親子分離が必要となり一時保護された子どもに対し、一時保護所内で共に生活し指導する役割です。私は児童福祉司をしています。今回はその細かい業務内容ではなく、仕事をするにあたっての視点を、大学で学んだことと関連づけてお伝えしたいと思います。
 私は学部、大学院とも教育福祉ゼミで勉強をさせてもらいました。教育福祉ゼミの研究テーマの根幹は「貧困」です。一口に「貧困」と言っても様々な切り口があり、見方も多様です。私はその中でも「子どもの貧困」をテーマにしていました。
 私は貧困下に置かれた子どもが、普段の生活の中でどのような選択をしていくのか、それに貧困という状況がどのように作用するのか、について研究しました。研究を行う中で、貧困下に置かれた子どもの制限された生活状況、経験値の少なさ、精神的に頼りに出来る人のなさなど、彼らの選択に影響を与える様々な要因がありました。そして貧困の中で彼らが取る選択は、必ずしも正しいものではなく、自身にとって不利益になることもありました。
 児童相談所で仕事をしていると、在宅生活で困難を抱えた世帯やその子どもには、上述したような状況がある場合は多く見られます。それは実は子どもだけではなく、その親にも同様の状況があった、という場合も多々あります。一見すると、悪いことをしてしまった親や子どもが悪い、と個人の責任に見えることでも、このような状況になるに至った背景を見ると、一概にそうは言いきれない場合が多いのです。
そのように「問題を個人に見る」のではなく、「問題をこれまでの環境に見る」という視点は、教育福祉ゼミにいたから得られたのではないかと思います。また、その視点があることで、解決方法を考える時に、視野も広がることを実感しています。
 大学で何を学ぶか、その後どのような仕事に就くか、可能性は無限大だと思います。私も大学に入学した時は、この先何をしたいのか、全く曖昧でした。皆さんも今後大学に入り、沢山のことを楽しみ、経験し、視野を広げていってほしいと思います。


遠回りをして辿り着いた「憧れの仕事

網走市役所 主事 石川 愛子
<教育行政学ゼミ/2004年度卒業>

s03_1

職場のデスクにて

私は現在、北海道の東側にある網走市の職員として働いています。私が網走市の職員になったのは、平成23年8月、大学卒業後6年4ヵ月間民間企業でシステムエンジニアとして働いた後のことでした。
大学へ入学する前から、教育学部で教育行政学を学びたい、そして卒業後は公務員として教育行政の現場で働きたいと考えていました。高校2年生の時に、教育学部のオープンキャンパスに参加し、先輩や先生方から話を聞き、「絶対に、ここで学びたい!」そう思っていたのです。
 大学へ入学するまでは、私の気持ちは真っ直ぐ教育学へ向かっていました。しかし、実際に大学生活を送ってみると、「教育行政学を学びたい」という気持ちだけではダメだということに気づきます。大学1年次では、教育学に関することよりも、他学部の学生と一緒に、幅広く様々なことを学びます。広い視野を養うことが求められるのです。2年次以降、私がずっと学びたかった教育行政学を学び始めてからも、政治のこと、社会のこと、子どもの発達のことなど、自分が学びたかったこと以外の分野も含め体系的に学ぶ必要があるのだと感じました。そして同時に、「教育に携わる仕事をするならば、広い視野を持った人にならなければ…」と考えるようになりました。
 大学卒業後の進路を真剣に考え始めた大学3年次の夏、憧れていた教育行政の現場(都道府県や市町村の教育委員会事務局)で働きたいと思う一方で、教育について学べば学ぶほど、「自分に務まるのだろうか」と不安に思う気持ちが大きくなっていきました。
 そんな不安を抱えたままでは公務員試験にチャレンジする気持ちにはなれず、民間企業への就職活動に集中することにし、縁あってシステムエンジニアとして働くことになったのです。

s03_2
網走市教育委員会・JAXA宇宙教育センター共催
「宇宙の学校」の様子

システムエンジニアとして働いていた間は、上司や同僚に恵まれ、また、自分の技術が顧客の課題解決につながる喜びを感じることができ、充実した日々を過ごしていましたが、東日本大震災をきっかけに、自分の働き方や生活を見直そうと考えました。
 転職先を探す中で、出身地である網走市の職員募集情報を見つけた時、教育行政の仕事に憧れていたこと、そして悩んだ末に諦めたことを思い出しました。社会人経験を経たことで、「今の自分になら、務まるかもしれない」と思いチャレンジした結果、採用され、現在に至ります。
市の職員として最初に配属されたのは、教育委員会事務局でした。私が憧れていた教育行政学の現場です。とても忙しい職場ですが、教育長をはじめ、職員みんなが「子どもたちのため、先生方のため」を合言葉に日々課題に取り組んでいます。
 私は、主に特別支援教育に関することを担当しており、障がいのある児童生徒や保護者の方、学校の先生と直接話をすることも多く、障がいや発達に関する知識が求められます。また、プライベートでは、朗読劇のサークルに参加し、網走市内外の児童館、図書館、福祉施設を訪問したり、社会教育イベントにボランティアスタッフとして参加したりしています。大学で教育について学んでいた時より、広く教育に触れ、学んでいる気がします。
これからも、市の職員として、そして市民として、教育に関わっていきたいと思っています。

トップへ戻る