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卒業式祝辞

2022年03月25日 おしらせ

教育学部長・宮﨑 隆志

 卒業おめでとうございます。今年は48名の方が卒業されます。3年間にわたってコロナ禍の下での卒業式になってしまいました。皆さんの場合はほぼオンラインの環境の下で専門課程を終えることになりましたが、その困難に打ち勝ちこの日を迎えられたことに、教育学部教職員を代表して、お祝い申し上げます。コロナ禍への対応に際しては、学生の皆さんの意見を伺いながら学部としての対応を進めることが必要でした。不透明な状況の中で学部の運営ご理解とご協力を頂いたことにお礼申し上げます。特に、学生の意見を取りまとめて下さった代表者の方々には格別の感謝の意を表します。ご尽力頂きありがとうございました。また、ご家族・関係者の皆さまにおかれましても、この間、通常とは異なる大変な苦労をされてきたこととお察しいたします。皆さまにもお祝い申し上げます。

さて、皆さんはこれから、大学院に進学される方も含めてさまざまな形で社会的な責任を担う立場につかれるわけですが、今年は例年にも増して特別な出発になりました。端的には世界史の転換点に立つ自覚、すなわち、私たちが住む世界の質が転換し、新たなフェーズに入るという意識を持つことがこれまで以上に強く求められています。
これまでも気候変動のリスクや生物多様性の喪失に伴う感染症の拡大などの人類史的なリスクは指摘されていました。しかし、この2月以来、人類はその理性を問われる局面に突入しました。これまで、私たちは、自然についても人間についても、そして社会についても何等かの修復機能を備えていることを前提にして日々の暮らしを考えてきたと思います。もとより人間が関与して生ずる問題である限り、その問題の修復や解決は自動的なものではありません。人類は、二度にわたる大戦の経験を経て、平和と安定を取り戻すための仕組みを創る努力を様々に行ってきました。このことが示すように、人類が自らの在り方を問い直す理性を鍛えて、世界の安定化に不断に努めることによって自然・人間・社会の修復と持続がなされてきました。
しかし私たちは、今や修復機能を前提とできない局面に突入しつつあります。そこに迫ってきているのは、世界の臨界点、つまりそれを超えれば修復のためのあらゆる努力が無効化され、暴走・爆発が始まるポイントです。気候変動と生物多様性に関しては、2030年にそれを迎える可能性が指摘されていることは、皆さんすでにご存知かと思います。そして今回のロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴う国際社会の分断は、残念ながら臨界点への到達を早めるようにも思われます。

卒業の晴れやかな日に、このようなメッセージを発することは相応しくないかもしれません。しかし、私たちは個人的な達成に満足できる世界にはもはや生きていません。繰り返しますが、世界の質は大きく変わり始めました。個人としての生き方と皆さんがかかわる社会、そして私たちが構成する世界の在り方を串刺しにしながら、人類の自己統御能力を高めるために努力することが、あらゆる領域、あらゆる世代の人々に求められています。
そしてこんな時代だからこそ、私たちは皆さんを期待と誇りをもって送り出したい。この局面では様々な人間の愚かさを目の当たりにすることによって人間に対する信頼や未来に対する希望を失う傾向も現れるでしょう。しかし、皆さんは教育学部で、どんな状況にあっても人間に対する信頼を失う必要はないし失うべきではないことを学ばれたはずです。いうまでもなく人間は有限であり、完璧な存在ではありません。しかし教育学はその現実から出発し、その背景を深く探求することにより、それを超える可能性、つまり人間発達の可能性や条件を明らかにしてきました。皆さんの卒論もそれに連なっています。その意味で教育学は人間に対する信頼を取り戻し築く学問です。皆さんが、この学部で培った力をこれから関わるあらゆる領域において発揮していただきたい。その個々の努力が、社会を変え、世界を変える大きな流れを生み出すことになると信じます。

最後になりますが、そのような努力は一人では持続しません。皆さんが職場や地域において今後出会う仲間と同様に、この学部で学んだ仲間の横のつながりも是非とも大事にしてください。そして、引き続きこの学部でこの時代を超える努力をしている私たち教員にもいつでも声をかけてください。私たちは、どのような世の中になっても、人間の理性と可能性を断念したりはしません。私たちも皆さんとともに歩んでいくことを誓って私からの祝辞と致します。


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