2022年03月25日 おしらせ
教育学院長・ 宮﨑 隆志
修了おめでとうございます。今年は39名の方が修士課程を、4名の方が博士後期課程を修了されます。3年間にわたってコロナ禍の下での修了式になりましたが、研究の遂行条件が制約されたもとで、それぞれの論文を完成させられたことは称賛に価します。今回は修士課程で15名の留学生の方々が修了されますが、日本人院生以上に苦労をされてきた方が多いと思います。文字通りに歯を食いしばって頑張り今日の日を迎えられていることに敬意を表します。併せて、ご家族・関係者の皆さまにおかれましても通常とは異なる大変な苦労をされてきたこととお察しいたします。教育学部教職員を代表して、修了生をはじめ皆様にお祝い申し上げます。
本日、修了される皆さんはこの間、自らが立てた問いに誠実に向き合い、事実に即して答えを出す努力を積み重ねてこられました。この経験には、今の時代に、そして人類が存続するために必要なあらゆる要素が含まれています。第一は、現状に甘んじず勇気をもって問うことです。問いを立てることは現在の世界の限界を直視することにほかなりません。第二に、その問いに誠実に向き合うとは、世界の限界の背景を粘り強く探求することを意味します。限界として現象する事柄は探求すればするほど、複雑に絡み合った問題群を露にするものです。時にはその複雑さを前に、自らの無力さを感じることもあります。それでも諦めずに、ベールを一枚一枚剝がしていく根気強い作業は、対象に対しても自己に対しても何事もごまかすことなく誠実に向き合う過程です。そして第三に、たとえ自らの仮説と異なっていても到達した事実に即して問いに答えることは、真理に忠実であることを意味します。そしてそれはその仮説を立てた自らに対する省察をも伴うものです。
皆さんは、専門領域に即した深い認識に到達されたのみならず、このような過程を遂行する人格をも形成されたはずです。さらに、何等かの意味で教育にかかわる研究を進めてこられた皆さんは、人間の形成と発達に関する深奥の事実と向き合いながら、先の経験をされました。教育学が向き合う客観的事実は、自らの在り方を集団的に再定義し発達させる可能態としての人間の事実であり、その意味で希望を内に含むものです。
さて、申し上げるまでもなく、私たちは現在、歴史的な転換点に立っています。これまで人類が構築してきた自然・人間・社会にかかわるシステムが調整機能や安定化機能を失い、その諸要素が暴走する状況を目の当たりにしています。その結果が気候変動であり、パンデミックであり、格差と分断であり、そして暴力を正当化する国家権力です。人間の理性の限界が露呈したこの状況で人間に対する信頼と希望を語ることは容易ではありません。しかし、人類が人間に対する信頼を失えば、いかなる科学や技術をもってしても、そこに希望は生まれません。
人間は信頼に値するものであり、この地球上に存在することが許されるのだと主張しようとすれば、これまで以上に深く人間の真実に迫る必要があります。この歴史的局面において、皆さんは可能態としての人間の客観的事実に即して省察を深める資質を備えて研究や実践の世界に旅立たれます。皆さんのこれまでの達成と可能性に自信をもって歩んで頂きたい。皆さんが引き続き勇気をもって現代の人類史的課題に向き合い、誠実に問い、真理に忠実である限り、この世界は希望と理性を失わないはずです。
もとより、そのミッションは私たち教員も同じく担っています。この局面において教育学は、希望の学としての地位を保持できるか否かの瀬戸際に立たされており、個々の教員にも希望を語る理論的資格の有無が、これまで以上に鋭く問われています。私たちは、皆さんとともに教育学研究の水準を一段と高め、この課題に応答してまいります。
皆さんのこれからのご活躍を心より祈念し、祝辞と致します。