動物であるヒトが人間(人と人との間に生きる存在)になるには,広範な環境刺激を人と人との関係の中で受容し,組織することを必要とします.知的障害,自閉症,学習障害などの発達障害は,生物学 的要因を背景に持ちながらも,その発現には環境との関わり方が重要な役割を果たしているといえます.
私たちの研究グループの課題は,発達障害や適応障害を脳に起因する障害としてとらえ,それが生じるしくみを,生物学的因子と心理学的因子のダイナミック スとして研究することによって,その診断,評価,および指導法を確立することです.そのような障害を持つ子供たちの発達を援助するためには,まず環境刺激 を受容・組織化する機構を解明し,障害を持つ子供たちの問題点を明らかにすることが必要です.その上で,環境要因を操作することによって,障害の生物学的 原因の影響を最小限にできる方法を開発する方法が望まれます.
現在,基礎研究として,さまざまな課題解決事態における脳波や事象関連脳電位,脳血流反応などを用いた脳の活動の計測と,表出された行動の分析を行っています.それらの結果を検討することにより,人の持つ適応機構の基礎的解明を行うことを目指しています.
また,学習障害などの発達障害のある子どもや適応障害のある人たちの協力を得て,さまざまな課題解決事態における認知特性の現れ方や環境との相互作用に ついての分析を行っています.これらの臨床的知見の集積と,基礎的知見の集積を統合化することにより,障害の基礎機構の解明が進展することが期待されます.基礎機構の解明の進展に対応して,障害に応じた基本的な治療教育法を開発することが可能となり,一人ひとりの特性に合わせた適応への援助を行ってゆけるようになることが期待されます.