学校経営論は、教育を受ける権利を保障する学校の制度的、組織的特質を明らかにし、望ましい教育ガバナンスのあり方を問う学問分野です。私たちは子ども期において誰もが学校教育とは無縁ではいられません。ですが、そもそも学校とはいかなる制度の下で、どんな背景を有し、何を目的に組織が作られ、運営をされているのでしょうか。学校は子どもの成長と発達に関わる身近で重要な存在ですが、その機能や抱えている課題はかねてより様々に指摘されています。また、様々な人が関わり複雑に構成される学校には、未だ多くの謎(問い)が存在しています。
学校経営論の研究室では、こうした背景を踏まえ、例えば次の要素に注目し、文献検討や調査活動を行っています。※調査は「教育行政・学校経営調査実習Ⅰ・Ⅱ」での実施
(1)公教育や学校教育に関わる法制度、法理念、政策 ※国民の教育権論、新自由主義教育改革、等
(2)校長や教職員等、学校に関わる主体の専門性、リーダーシップ ※分散型リーダーシップ等
(3)学校と地域、そして住民との関係性、協議会 ※学校運営協議会等
(4)学び手である子どもが参加する学校づくり ※開かれた学校づくり等 など。
かつて、アメリカのシカゴにおいて英語とスペイン語のバイリンガル教育を実施する公立小学校を調査したことがあります。この学校はメキシコからの移民の児童生徒がおよそ95%を占め、当然のことながら英語が不自由な子どもが多く在籍しています。しかし、子どもたちはアメリカ社会で生きていくために英語を身につけなければなりませんし、将来に向けて通常の学習をしっかりと進めていくことも重要です。一方保護者は我が子に対し、英語だけではなく、母語であるスペイン語も引き続き身につけ伸ばしてほしいと願っています。では、この学校はこうした特殊な状況や親の願いを引き受けて、どのように教育の目標を定め、いかにして学校づくりを進めているのでしょうか。この実現の過程に注目し、そこに関わる人の組織化や合意の営みに注目するのが、学校経営論の関心になります。
その取り組みの一部は実に興味深いものでした。例えば教科書です。授業の中で両方の言語を学ぶ子どもたちは、この 学校では二種類の教科書を使います。それらは表紙のデザインから内容に至るまですべて同じですが、片方は英語で、もう片方はスペイン語で書かれています。 子どもたちはこの二冊の教科書を一日おきに交互に利用し、両言語を行き来しつつ一貫した内容を学習しているのです。学校経営論の関心から見れば、この特殊な 教材利用と特殊なバイリンガル教育の方法が、なぜ、どのように採用されるに至ったのか、このような教育を実践できる先生をどのように集め、どのように日々改善に努めているのか、などの疑問を解明することにあります。そこには、この学校の自治的な運営組織のあり方が関わっていますが、その話の続きはまたどこかで。