教育という営みは、人々の生の営みのあるところいつでも・どこでも行われてきました。「教育史」とは、人々の生きた痕跡を具体的に確かめながら、成育・社会化の慣行や組織、伝達・伝承の様式や内容、教え・学ぶ者の規範や関係性など、それぞれの時代・地域の特徴と相互の連関を検証していく研究領域・方法だといえるでしょう。異なる時代・地域の側に視点を据えることができれば、自分たちの日常の経験や直面している問題も、これまでとは違って見えてくるはずです。
たとえば、「現代特有の教育問題」や「日本独特の教育文化」だとされる事象について、「新しさ」や「日本らしさ」への思い込みを脇に置き、史実とその意味を探索すること。あるいは、「現代教育の病理」とされる現象について、処方箋を急ぐよりは、教育の生理現象のひとつとしてその仕組みを探究すること。そのなかで、これまで意識していなかった問題の連鎖や、あたかも無関係に見える諸事象のつながりが、浮かびあがってきます。その試みは、当面する諸課題に対しては、悠長な遠回りのようでもあり、ラディカルな問いかけでもあります。