お知らせ

【開催報告】4~7月 教育学研究のための理論と方法論読書会(全4回)

投稿日: 子ども発達支援研究部門
  • 第1回 2019年 4月20日 企画趣旨説明・序章
  • 第2回 2019年 5月18日 第1部
  • 第3回 2019年 6月15日 第2部
  • 第4回 2019年 7月20日 翻訳者 伊藤嘉高先生 ご講義
(第4回)伊藤嘉高先生による講義

 

報告

子ども発達支援研究部門が対象とする「子ども」とはどのような存在なのでしょうか?

乳児期や幼児期とは人間が成熟して大人になっていく際に誰もが必ず通る普遍的な発達段階で,その意味でより「自然なもの」として考えることができます。その一方で,子どもを「社会的なもの」「文化的なもの」と考えることもできます。たとえば,子どもと大人の線引きはあいまいで,18歳という年齢を基準とするのは自然に決まっているというよりは社会的な制度によるものですし,そうした制度の背景には子どもに関する文化的な通念もあるでしょう。

こうした問題に対して,どちらか一方に限定せず,自然なものでも社会文化的なものでもあるというハイブリッド的な性質を子どもに見出そうという発想が社会学に現れています(プラウト, 2017)。そしてこの発想の背景にあるのが,フランスの社会学者ブリュノ・ラトゥールが提起したアクターネットワーク理論(Actor Network Theory; ANT)です。

ANTは社会学の方法に関する理論です。一般的な社会学は,人間の考え方やふるまいを説明するために,階級や民族といった社会学的なさまざまな概念を用います。ANTはそうした方法に反対し,そもそも階級や民族といった概念が人やモノの膨大なつながりの中にどのように埋め込まれ,それによって何を可能になっているのかという観点から記述することを推奨します。

ANTの立場に立てば,幼い人間が「子ども」としてふるまっていると理解できる場合,そこには「子ども」という概念との結びつきがある,と記述されます。また,大きな人間が目の前の幼い人間に特定の仕方でかかわり,それを「子どもに対する発達支援」として理解するとき,そこには「発達」「支援」といった概念やさまざまなモノ(心理検査や学校や文字など)が結びついていると記述することができます。ANTはこのように,人やモノ(概念も含む)を互いに対等な平面上の関係に置いた上で,それらの間の「連関」(association)をたどり,記述することを社会学の方法として提起するのです。

ともすると私たちは子どもへの発達支援を当たり前のこととして考えてしまいます。しかし「子ども」に対する「発達支援」がどのように成り立っているのかをANTに沿って記述していくことは新たな見方につながっていくのではないか,そのような感触をもちました。

本企画ではANTを理解するために,2019年1月に出版されたばかりの『社会的なものを組み直す』(法政大学出版会)をテキストとして用いました。本書は「アクターネットワーク理論入門」と副題にあるように,ANTの主導者であるラトゥール自身によって書かれたANTの解説となっています。

輪読形式で3回に分けて実施された読書会では,その場でなんらかの「正解」を導き出すのではなく,「読んでも分からないことをあぶりだそう」をモットーとして,疑問点を挙げることを目的としました。それらの質問は訳者である伊藤嘉高先生(新潟医療福祉大学)にあらかじめお問い合わせしておき,最終回において伊藤先生みずから解説と質問への回答をいただくこととしました。

4月には9名で始まった読書会でしたが,回を追うことに人数が増え,7月20日に開催された伊藤先生による講義には倍の18名もの方々にご参加いただきました。2時間にわたる講義とさらなる質疑応答で会場は盛り上がり,充実した議論をすることができたとともに,ANTに対する理解を参加者各自で深めることができたように思われます。

本センターでは今後も子どもや発達に関する社会科学的理論の積極的な構築と普及につとめていきます。みなさまのご協力のほどよろしくお願いいたします。(文責 伊藤崇)